ベトナムにおけるデジタル社会の実態に関する調査報告書

リージョン:ベトナム社会主義共和国
調査対象地域:ハノイ市、ホーチミン市、ダナン市を中心とする主要都市部

調査概要と基本データ

本調査は、ベトナムの主要都市を中心に、デジタル社会の実態を技術的・実用的観点から記録することを目的とする。調査期間は2023年10月から2024年1月。情報源は、ベトナム情報通信省General Statistics Office of VietnamGoogleWe Are SocialDataReportal等の公開データ、現地企業へのヒアリング、実地観察に基づく。ベトナムのインターネットユーザー数は約7,800万人、普及率は79%に達する。スマートフォン普及率は95%を超え、モバイルファーストの社会基盤が確立している。

インターネット規制の法的枠組みと対象プラットフォーム

ベトナムのインターネット空間は、サイバーセキュリティ法(2019年施行)および情報技術法出版法等により厳格に管理される。同法に基づき、政府はFacebookYouTubeTikTokGoogle等のグローバルプラットフォームに対し、国内サーバーの設置とユーザーデータの国内保管、違法コンテンツの削除要請への迅速な対応を義務付けている。特に政治・治安・歴史に関する情報の流通は厳重に監視される。2023年には、TikTokが偽情報や違法コンテンツの蔓延を理由に大規模な調査を受け、Netflixもコンテンツ審査の強化を求められた。国内SNSとしては、政府系企業Viettelが開発したGapoや、Zalo(メッセージングアプリ)のソーシャル機能が推進されているが、ユーザー数ではFacebookが依然として圧倒的シェアを占める。

VPN利用の実態と主要サービス

規制環境下において、VPNの利用は一定層に浸透している。主な用途は、業務上のリサーチ、学術情報へのアクセス、NetflixHBO Max等のグローバルエンタメコンテンツの視聴である。利用者は主にIT従事者、外資系企業社員、学生層に集中する。下表は、現地で確認された主要VPNサービスとその特徴である。

サービス名 推定普及度 主な利用用途 接続安定性(現地評価)
ExpressVPN 高い 業務、高画質動画視聴 高い
NordVPN 高い 総合(セキュリティ重視) 高い
Surfshark 中程度 コスト重視の個人利用 中程度
CyberGhost 中程度 特定サイトアクセス 中程度
国内事業者提供VPN 低い 企業内ネットワーク接続 高い

外資系企業、特にGoogleMetaMicrosoftの現地法人や、シンガポール・香港を拠点とするスタートアップは、国際的な業務遂行のために企業契約のVPNを常用している。ただし、サイバーセキュリティ法は「違法な」VPNの使用を禁止しており、規制強化のリスクは常に存在する。

モバイルマネー市場の構造と主要プレイヤー

ベトナムのキャッシュレス決済は、QRコード決済を中心に急激に普及している。市場は、MoMoZaloPayVNPayShopeePayの4大サービスが寡占状態を形成する。中でもMoMoは、ユーザー数約3,000万人を擁し、送金、公共料金支払い、航空券購入、投資商品販売までを含む「スーパーアプリ」化を推進している。ZaloPayは、国内最大のメッセージングアプリZaloVNG社製)との連携で強みを持つ。VNPayは、National Payment Corporation of Vietnam (NAPAS)と連携した銀行間決済インフラ「Vietnam Quick Response Code (VietQR)」の標準化で主導的立場にある。ShopeePayは、ECプラットフォームShopeeSea Group)のユーザー基盤を背景にシェアを拡大中である。

キャッシュレス決済の浸透度と地域格差

政府の「デジタル決済開発案」により、2025年までに現金取引比率を10%以下とする目標が掲げられている。都市部(ハノイホーチミン市ダナン)では、コンビニエンスストア(Circle KFamilyMart)、ファストフード(LotteriaKFC)、コーヒーチェーン(The Coffee HouseHighlands Coffee)から路店の屋台に至るまでQR決済が広く浸透している。一方、地方では依然として現金依存度が高く、浸透には時間を要する状況である。ベトナム国家銀行のデータによれば、2023年の非現金取引件数は前年比50%以上増加したが、取引額ベースでは現金が依然として大きな割合を占める。

日本アニメ・ゲームコンテンツの流通経路

日本製アニメ・ゲームコンテンツに対する人気は非常に高い。公式配信プラットフォームとしては、NetflixDisney+ HotstarCrunchyrollが主要なアニメ配信を担う。しかし、非公式のファンサブサイトやアップロードサイトを通じた視聴も根強い。ゲーム分野では、PUBG MobileKrafton)、Genshin ImpactmiHoYo)、League of Legends: Wild RiftRiot Games)が圧倒的人気を博す。日本からの直接サービスとしては、Bandai Namcoの「Blue Archive」やCygamesの「Uma Musume Pretty Derby」等が現地語ローカライズされ、積極的に展開されている。

国内ゲーム産業とeスポーツの成長

.GEARVNGGarena(現地法人)等のパブリッシャーが市場を牽引する。Flappy Bird.GEAR所属の開発者)の世界的成功以降、国内開発スタジオの育成が進み、Arena of ValorTencent/VNG)、Free FireGarena)等のタイトルが東南アジア市場で成功を収めている。eスポーツは、Vietnam Championship Series (VCS)を頂点とするリーグ構造が確立し、Team FlashSaigon Phantom等のプロチームが多数存在する。大会はYouTubeFacebook GamingTrovoで配信され、大きな視聴者を集めている。

都市鉄道(メトロ)の整備状況と課題

ハノイでは、カタルベトナム)駅~ハドン駅間を結ぶ2A号線日立製作所が車両・信号システムを納入)が2021年に部分開通した。ホーチミン市では、ベンタインスオイティエン間の1号線三菱商事住友商事ヒュンディロテム等がコンソーシアムを構成)が2024年の開業を目指し工事が最終段階にある。これらのプロジェクトは日本国際協力機構(JICA)の円借款を主要財源としており、日本の技術基準が導入されている。課題は、建設コストの膨張と開通遅延、既存のバスネットワークとの乗換インフラの未整備、駅周辺の再開発の遅れである。

配車アプリと交通情報サービスの現状

配車アプリGrabが市場を独占的に支配しており、バイクタクシー「GrabBike」、車タクシー「GrabCar」、食品配送「GrabFood」が日常生活に不可欠なインフラとなっている。Grabは、Moca(子会社の電子ウォレット)との連携で決済を内製化し、Google Maps連携によるナビゲーション機能も提供する。公共交通に関しては、ハノイ市交通公社が「BusMap」アプリを提供し、バスのリアルタイム位置情報を提供している。しかし、鉄道、バス、配車サービスを統合したマルチモーダルな経路検索・決済サービスは未だ発展途上段階にある。

通信インフラとクラウドサービスの基盤

モバイル通信は、ViettelVinaphoneVNPT)、MobiFoneの3事業者が市場を寡占する。特に国営企業Viettelは、5G展開において主導的立場にあり、独自の技術開発も進めている。クラウドサービス市場では、Amazon Web Services (AWS)Microsoft AzureGoogle Cloudが進出し、データセンターを建設中である。これに加え、ViettelVNPTFPT等の国内事業者も自社クラウド「Viettel IDC」「vCloud」等を提供し、データローカライゼーションの規制に対応したサービスを展開している。

総括:デジタル社会の二面性と今後の展望

本調査により、ベトナムのデジタル社会は、厳格な情報管理と、民間主導の活発なサービスイノベーションが併存する二面性を持つことが確認された。政府はサイバーセキュリティ法による管理を堅持しつつも、デジタル決済開発案国家デジタル変換プログラムを通じて経済のデジタル化を強力に推進している。民間セクターでは、MoMoVNGGrab等がスーパーアプリ化とエコシステム構築を競い、ベトナム発のゲームやアプリが地域市場で存在感を増している。インフラ面では、日本をはじめとする外国の技術・資本導入による大型プロジェクトが進行中だが、その効果は未だ限定的である。今後の観察ポイントは、規制環境とイノベーションのバランス、国内デジタル企業の国際競争力向上、そしてハードインフラとソフトサービス(アプリ)のシームレスな統合の進展である。

発行:Intelligence Equalization 編集部

本インテリジェンス・レポートは、Intelligence Equalization(知の均等化プロジェクト)によって執筆・制作されたものです。日米のリサーチパートナーによる監修を受け、情報格差の解消と知識の民主化を実現するため、グローバルチームがその内容を検証しています。

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